MGMの通りを歩いていたレスリーはアンドレ・プレヴィンに呼び止められます。
「まだ聞いていないと思うんだけど・・・・・・君の歌は吹き替えになるみたい」
「何ですって?」
びっくりして声も出ません。
「ええ、聞いてないわよ。本当なの?」
「アラン・ジェイ・ラーナーとアーサー・フリードは映画の公開前にレコードを出したいと思ってるんだ。君の歌声じゃ商売にならないと考えてるんだよ。君の歌はベティ・ウォンドが吹き替えることになってるんだ。フランス訛りも真似てね。」
私はこの知らせに打ちのめされました。確かに私は専門的な歌の訓練を受けていません。でも音程は確かだし、”Say a Prayer for Me Tonight”を歌うために一生懸命努力を重ねて来たのです。”I Don't Understand the Parisians"や”The Night They Invented Champagne”が男の子の様にがさつなのは、少しお転婆な思春期の少女を表現するためだったのです。彼女にとってガストンはただの仲間で、ちょうどガストンにとってもジジがうら若き女性に成長していることに気づいていないのと同じことです。声にセクシャリティが欠けていることこそ、映画に説得力を持たせるために必要だったのです。
今日に至るまで、ウォンドさんのとってつけたようなフランス訛りのかわいらしい歌声を聞くと胸が痛みます。ミュージカルナンバーの撮影は私自身の声を流しながら行われていたので、フリードが吹き替えを選ぶなんて考えてもみませんでした(50年たった今になって、MGMはDVDに私の声を入れています---ひどい)。
ショックを受けた私はすぐにアーサー・フリードのオフィスに飛んで行きました。
「アーサー!!」
いきり立った私は話し始めます。
「まあ、座りたまえ」
座ると再び怒り全開です。
「アンドレに会ったら教えてくれたの。吹き替えになるんですって? そんなことないわよね!!。 私に知らせもしないで、もう一度チャンスをくれもしないで、そんなことをするはずないわよね!!」
アーサーは立ち上がると指を立てて言いました。
「ちょっと待っててくれ」
彼はデスクのわきを通り、ドアから出て行きました。10分間ほど一人で部屋にいた後、私は立ち上がり秘書室まで歩いて行きました。
「マージ、アーサーはどこ?」
「まあ、キャロンさん」
彼女は驚いたように言いました。
「彼、言わなかったの? 10分ぐらい前にお宅へお帰りになったわ」
対面して問い詰めることはもう出来なくなったのです。
アーサーに怒りをぶつけたいと思いながらも、私はいろいろと考えていました。彼こそ私をハリウッドに呼び寄せてくれた人だということ。そしてジョージ・バーナード・ショーの劇作のミュージカル版に「マイ・フェア・レディ」という題名を思いついた天才だということを。
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