2008年3月10日月曜日

フレッド・アステア その16 「上手い?」-2

 さて、下らないと思われるかもしれないが、私はミュージカル映画のダンスがオリンピック種目だったら誰が優勝するだろうと考えることがある。芸術的要素の入った競技だから、ちょうどフィギュア・スケートやシンクロナイズド・スイミングと同じように、技術点と芸術点の両方で採点されることになるだろう。そうなると当然、ジャンプやスピンのための高い身体能力と芸術性をバランス良く備えたダンサーが優勝することになる。そこを考えると、男性ではニコラスブラザースが断トツの一位になるのではないかと思う。

 多用するスプリットはいささか鼻につき、兄のフェイヤードが言うほど優雅で品があるとも思わないが、その驚嘆すべき中心軸の安定とジャンプ力、両手と体幹を連動させた独特の表現力はやはり賞賛せざるを得ない。

 彼らが一位とすると、その後を追うのは誰か。三十代のジーン・ケリーではいささか荷が重いので、二番手はトミー・ロールやボブ・フォッシーあたりを考えるのが妥当なのだろうか。しかしこれはいわゆる「おなじみ」の中から選んだ場合であって、「ちょっとだけ出ている」人まで範囲を広げると話は変わってくる。誰が一番とは言わないが、身体能力と上手さを兼ね備えた人はそれこそたくさんいるからである。

 たとえばエレノア・パウエル主演の ”Lady Be Good” (1941) にゲストとして出てくる黒人三人組のベリーブラザース。アクロバットと言ってしまえばそれまでだが、ジャンプして相棒の首に両足で絡みついたり、自分の前に立てたステッキが倒れない内に、スピン一回転と両足のスプリットから立ち上がるまでを行う身体能力には唖然とする。

 リタ・ヘイワースの「今宵よ永遠に」(1945)は「ヘンダーソン夫人の贈り物」(2005)と同じ題材を踊り子の側から描いたミュージカルだが、二人の素晴らしいダンサーが登場する。一人は当時バレエ・リュス・ド・モンテカルロ のスターだったマーク・プラット。もう一人はキャロル・ヘイニーの項で少し触れた振付家のジャック・コールである。



 マーク・プラットは冒頭一座への入団シーンで、ラジオから流れる様々なジャンルの音楽に合わせ、これまた様々なダンスを見せてくれる。ジャズをバックにしても、いささかバレエ臭さはあるものの、みごとにスイングし、訓練しきった身体の素晴らしさを堪能させてくれる。

 一方のジャック・コールは、プロダクションナンバーの一つでリタ・ヘイワースと絡み、かなり長めに踊っている。リタがメインであるから、当然ジャック・コールは彼女に合わせ、力をセーブしている。それでも垣間見られる鋼のようなバネと力を抑えたことで生まれる一種の軽みが、不思議な凄みを醸しだし、「本気で踊ったらどれほど素晴らしいのか」と観る者に期待を抱かさせずにはおかない。

 

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