2008年3月10日月曜日

フレッド・アステア その17 「上手い?」-3

 管見しただけでもこれだけいるのだから、身体能力と芸術性を一定レベル以上に兼備えたダンサーの数は見当もつかない。こういったレベルのダンサーを上手さを考える上でまず第一のカテゴリーとして分類してみたい。

 上手さには別のカテゴリーに分類せざるを得ないものもある。

 当ブログを書き始めた頃に触れたシルヴィ・ギエムのパフォーマンスである。ただ立っているだけで、観客に直接情念で語りかけてくるような圧倒的な伝達力。 ギエムはもちろん卓越した身体能力も持っているが、時にはこのような能力も見せてくれる。同じ範疇にはいる人物に能の友枝喜久夫がいる。

 こういう人々の踊りでは基本的に動きはごく少ない。もっと言えば、動きは邪魔になる。このカテゴリーはいわゆる名人の領域なので、人数としてそう多くはないが、上手さを考える上で落としてはならない。

 ではわれらがアステアはどうか。第一のカテゴリーを基準に考えると、飛んだり跳ねたりの身体能力の点でまず落第ということになる。本人に元々その気がなかったのかもしれないが、回転数や高さで表される身体能力と、その能力に裏打ちされた技術の点で、彼らに到底およばない。明らかにこのカテゴリーの人ではない。

 では第二のカテゴリーではどうか。

 日常の立ち居振る舞いからして観る者を魅了するところは一見似ているようだが、アステアは不動だとか動きが不要なわけではない。たとえわずかな動きであってもそれが観客を魅了し、かつ動きが邪魔にならない点において大きく異なっている。

 さらに、第二のカテゴリーにおいて伝えられる情念は常に凝縮され、観客はそのエネルギーに見合うだけの緊張と疲労を強いられるのに対し、アステアの伝えるものはあまりに明るく拡散し、観客はうっとりと安らぐばかりである。


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