2008年2月3日日曜日

フレッド・アステア その9 「瞬間移動」

 またまた出てくる”Puttin' on the Ritz”
 アステア屈指のダンスナンバーに温泉旅館のロビーのようなこのセット。パラマウントも偉い。


 これも動きを見ないとわからないでしょうが、このナンバーの冒頭、アステアが写真のような姿勢から右に左に体の向きを入れ替え、回転します。この動きが実に速い。ただしここで言う「速い」は単純に距離を時間で割った速さのことではありません。単純な速さ自体はそれ程でなくとも、動きの予備動作がないため観客が始動を予測できないことによって生じる感覚としての「速さ」---「気配の無さ」---です。一種の瞬間移動と言ってよいでしょう。

 これも筋肉でなく骨格全体が一挙に動き出すことによって起こる現象です。

 ジーン・ケリーと較べてみるとよくわかります。以前書いたようにケリーの動きの特徴は、筋肉を伝わる波動--「うねり」--にあります。これが重みや質感とあいまってケリー特有の色気を醸し出すのに対し、骨から瞬間的に動くアステアからは、軽さが極まった果ての快楽が生まれるのです。


  続いて「ダンシング・イン・ザ・ダーク」
 公園を散策する二人はこの映像の直後に踊り始めます。


 散歩からダンスに移行する瞬間の二人の動きに注目していただきたい。シド・シャリースが準備段階として左足に重心を移し、右足を上げ、その力を腰や胸にためて右へ回転しながら胸を開いて、やや上方に動き始めるのに対し、アステアはこの姿勢のままややうつむき加減で、前触れもなくフッと動き出します。

 ここでも「うねり系」と「瞬間移動系」の対照があきらかです。


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