2008年2月1日金曜日

フレッド・アステア その8 「捨てる」

 これまでアステアが体を動かす大まかな仕組みについて見てきました。ここからは体の実際的な運用を考えてみましょう。

 アステアは軸型のひとですが、受ける印象はクラシックバレエのダンサーとはだいぶ異なっています。バレエの踊り手が手足の末端や頭の先まできちんとしたラインを作り、寸分の隙もないのにくらべ、アステアは逆に末端を「捨てて」いきます。

 手でいえば「七分袖」くらいのところまでは気持ちを入れてコントロールしますが、あとは自然に任せています。バレエダンサーの特徴である、のどの下から上胸部をスッと伸ばして首のラインを際だたせる体のつくりも行いません。首も力まず自然に任せたままです。

 アステアはバレエ風の踊りを嫌っていたといわれますが、このように末端を捨てることで、バレエのダンサーからわれわれが直感的に受ける緊張を感じさせません。中心軸がしっかりしていながら観る者に安らぎを与える自然さも、アステアの大切な特性です。

 ただしここで気をつけないといけないのは、末端を「捨てて」はいても、いい加減に扱ってはいないことです。いざ必要なときには手足の先端まで気持ちを入れてコントロールします。

この違いを見ていきましょう。


 「ガール・ハント・バレエ」のワンシーン。

 写真だけでは動きがわからないと思いますが、シド・シャリースが指の先端まできっちりラインを作っているのに対し、アステアの手の使い方は一見奇妙です。素人が盆踊りで手を左右に振るような・・・・・あるいは、片手で壁に何かをペタペタ貼っていくような・・・・・素っ気ない手の動き。

次は同じく「バンドワゴン」から「ダンシング・イン・ザ・ダーク」


ここぞというときは足の先端まで気を行きわたらせますが、それでも力感がないのがアステアならではです。


 最後に一つ。以前から気になっている動きを。


 ”Puttin' on the Ritz”から。 ブレてよくわからない。


 子供が駄々をこねるように手足をばたつかせる動きを本人は嬉々としてやっています。他のナンバーでも同様の振りがあったような気がしますが、アステアのエレガンスや隙のなさとはあまりに対照的で、この動きをとり入れていることが不思議でした。

 今回アステアの体を考えてみて、仮に上述のように末端を捨て身体の中心部を使うことに彼が「快感」を抱くとしたら、この動きを取り入れている意味もなんとなく納得できる気がします。まあ、こればかりはあまり自信がありませんが・・・・・・。


2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

「子どもが駄々をこねるように手足をばたつかせる動き」!!

そうなんです、これ、私もとても気になっていました。これ以外のナンバー(I wanna be a dancing man とか)でもよく見かける、アステアならではの特徴的な振りですよね。

この動き、なんてことないように思えますが、踊りとして取り入れるにはとても難しい動きだと思います。ダンサーは自分の体のくせというか、どう見せどう踊ると美しく、かっこよくキメられるかを分かっていて、そこにこだわりがちですが、このバタバタ動きは「キメ」られない。他の人がまねしてやってみても、「見るに堪えない動き」になっちゃうことが想像できます。普通のダンサーは「捨てる」ことができないんですよね。

まさに、アステアしかできない動き!
彼自身も楽しそうに見えます!!

匿名 さんのコメント...

takkoさん、今晩は。

他にもこの振りが気になっていた方がいると知って、なんとなく心強い。

実際にこの振りを入れた理由はわかりませんが、いろいろ考えてみるのも楽しいものです。

ではまた。