2010年2月7日日曜日

ジュディ・ガーランド その17 「あなどれない」


















「スター誕生」から“Lose That Long Face”
「陰気な顔をせずに明るくいこう」と歌い踊ります。

 このナンバーは他の曲に比べ、あまり話題にされることがありません。監督のジョージ・キューカー自身もさして重要視していなかったらしく、撮影も振り付家任せだったそうです。歌の内容に合わせ、皆と楽しく踊っていると云うだけで、なんら新しい趣向があるわけでもありません。


 しかし、ことジュディの身体を考えるにおいて、このダンスは重要だと私は考えています。


 これまでにも多くの作品で彼女は踊ってきました。"Presenting Lily Mars”ではフィナーレでチャールズ・ウォルターズとかなり長い時間踊っていますし、ケリーやアステアとも共演しています。相手はそれぞれトップの実力を持つ踊り手なので、較べてしまうと、本格的にダンサーとしての訓練を受けていないジュディには分の悪いものになります。
 まあ、「意外と踊れるな」とか「ぼろを出さずにそこそこ踊っている」というのが正直な感想でした。彼女に関する記事を読んでも、振り付けを一度見ただけで覚えてしまう記憶力の良さについての記述はあっても、稽古法やダンスに関する彼女の考えなどに出会ったことはありません。


 しかしこのナンバーの彼女を見ると、技術やテクニックではない基本的な身体能力のすばらしさに驚くことになります。タップとしてはさして複雑なステップではないのでしょうが、全身がリラックスして余分な力が入っておらず、重力に逆らわずに落ちた腰が安定し、体が動いても重心があまりぶれません。とくに股関節周辺がリラックスして非常に柔らかく、体内筋群で操作しながら、ステップにあわせ下肢を放り出すように使っています。

 このリラックス感と必要な筋肉のみで体をコントロールする能力は、ジョージ・マーフィーやキャグニーなど、おそらく彼女よりダンスの訓練を専門的に積んだと思われる人々が、結局手に入れることができなかったものです。彼らはそれを他のテクニックで「ごまかし」、自分の個性にしていくしかなかったのです。

 このように無駄な緊張に束縛されない身体は、彼女の歌や演技にも大きな影響を与えていると思われますが、ここではこれ以上の推測は控えておきます。


 ジュディ・ガーランドの踊りはあなどれません。
 (あなどっていたのは私だけか?・・・・・・)



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