2010年2月23日火曜日

ジュディ・ガーランド その20 「衰弱」

















196411月、最後のパラディアム公演

 冒頭、わずかな風に吹かれて浮遊するかのごとく現れます。少女時代の特徴であった、大地をしっかりと捉える足、腰はそこにありません。地面とのつながりを失い力なく漂うその姿に、彼女の歳月の移ろいを感じます。


 1960年代中盤から亡くなるまでのジュディ・ガーランドについては、ネット上に多くの映像が残されています。必ずしも時間軸に沿って偏りなく残っているわけではありませんが、これらの映像を見ていくことで彼女の経年の変化を知ることができます。これから、残された映像を参考に、ジュディの死に至るまでの身体と歌を考えてみたいと思います。


 50年代末から、ジュディののどは荒れ、声のガサツキも目立ってきます。しかしこの頃は体にも力があり、「少し声がザラついている」といった程度でさして気にもなりません。62年から64年にかけてのTVショーの映像を観ても、この時期としてはそれなりに充実した内容だと思われます。
 しかし時間の経過とともに声帯とのどの周囲の筋力が衰え、のどを通した歌声が弱々しくなっていきます。それでも65年から66年にかけては、まだ外見も健康そうで、主声域を形成する体幹部に力があるため、歌い上げる場面では声もかなり出ています。

 それが67年になると、痩せて容貌も衰え、歌声はさらに弱々しくなっていきます。声帯自体が弱くなっているばかりか、主声域が硬く棒のようになり、この人の最大の持ち味であった声の「上下への伸び」が感じられません。時期により異同もありますが、身体各部位の連動が乏しく、体幹部中央の主声域のみが別個に活動しているように聞こえることがあります。

 68年になると、歌う時も椅子に座ったままの映像が多くなり、体力の衰えは隠しようもありません。声はさらに弱まって、かつての迫力や声量がないことが歌い出しから明白になっています。若い頃の歌声が耳に残っている「虹の彼方へ」や「トロリーソング」などを聞くと、その落差には複雑な思いを抱かざるをえません。



 しかし、不思議なことに「衰え」がそのまま「下手」になっていない場合があるのです。

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