2009年11月4日水曜日

ちあきなおみ その1 「言い訳」

 ちあきなおみ はハリウッドと関係がない。勿論、踊りもしない。なのにどうして ちあきなおみ なのかと不審に思われるかもしれないが、まあ・・・・・他意はない。
 ただ、彼女について書いておきたかったのと、歌について一度考えてみたかっただけである。


 ちあきなおみについて本当に興味をもったのは、四年前にNHKの衛星放送で放映された「歌伝説  ちあきなおみの世界」がきっかけである。この番組は大変な反響があったらしく、以後再放送を五回も重ねている。この番組によって、それまで静かに続いていた彼女のブームが表に出て、「ちあきなおみは上手い」という評価を完全に世間に定着させた。再放送の要望と回数が、彼女の歌のうまさを再認識した人の多さを物語っている。こう書いている私ももちろんその一人にすぎない。
 しかし世間の評価が一度定まると、ものごとの陰翳は取り払われ、「うまい」「すごい」と云った賞賛一辺倒に陥ってしまう。そこからは、彼女の真の巧さも欠点も、経年の変化もすべて抜け落ちる。ここは、せめて同時代に生きたものとして、その襞をもう一度指でなぞりながら、彼女の歌の巧さの依って立つ構造や、他の歌手との違いを考えていきたい。


 まずは私自身の体験も交えた「言い訳」から始めてみる。

 実を言えば三十年以上前から「ちあきなおみは上手い」と思っていた。

 大学時代、確か昭和52-53年頃と思うが、後輩の女の子二人にどんな歌手が一番好きかと聞かれ、彼女の名を答えた記憶がある。ただそれだけのことで、話がそれ以上発展した記憶もない。なのにそんなことを未だに覚えているのは、聞いていた女の子の顔に何とも言えない表情の変化を見てとったからである。答えた後で気恥ずかしさから「だって上手いんだから・・・」と心の中でつぶやいていた。これが今時の女の子になら、もっとあけすけに「エーーー」とか「ゲッ・・・・」とか言われていたかもしれない。それを何も言われずに終わったあとの・・・・・・・・・そんな居心地の悪さである。

 実際のところ彼女たちの顔にそんな変化があったのかも定かではない。逆に私の気恥ずかしさが、勝手に読み取っただけかもしれない。しかし大切なのはどちらが真実だったかではない。当時ちあきなおみと云う歌手には、ストレートに好きだと言うにはどこかはばかられるある種の「奇妙さ」がつきまとっていた-----少なくとも私はそう感じ、それが世間に共通する認識でもあると考えていた----と言う事である。

0 件のコメント: