2009年11月15日日曜日

ちあきなおみ その9 「 Tokyo挽歌 」




こんな曲があると最近になって初めて知った。


 珍しくちあきなおみが踊っている。


 この程度の動きから彼女の身体についてどうこう言いたくはないが、多分この人はこうやって体幹部を動かすのが好きなのではないかと思う。二十代でやった美空ひばりの物まねの映像を見ても思うのだが、この人には元来胸や腹を上手く使う素質が備わっている。それが歌に年期を重ねるほどに---もちろん本人の意図的な努力もあっただろうが---ますます開発されて来たのではないか。


 他の歌手に目を向けると、腹の力でポンプのように空気を押し出し、声を口から出せば良いと思っている人もいれば、長年のうちに体のどこかが妙に力んで、若い頃よりかえって下手になる人もいる。

 長く歌っていても解らない人には解らないのである。


 歌の最後に「叫ぶ」場面があるが、「夜へ急ぐ人」と比べればその深化が解る。叫びの方向が逆転し、腹の底に「叫び込む」歌い方になっている。情念の凝縮が見て取れる。


 もう一つ気づくのは、この人は体と表情で感情を先に表現し、歌詞がその後から付いてくることである。

 前回述べた「悲しみやつらさのポイント」と同様、人間の体幹部にはさまざまな感情や情感を表現する装置がある。そこをまず上手く使い、結果としてある表情が生まれる。観客はその時点ですでに十分にその表現を感受し、その上で歌詞の言葉を待つ。その待つ間が何とも言えない。彼女の歌が、声だけ聞くより実際に見た方がよりすばらしく感じるのは、こういった理由による。


 ちあきなおみの「演技」については、次回、更に考えていきたい。


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