基本的にはこれまで書いてきたことを変えるつもりはないが、同じ「前期」と言っても昭和52年の「ビッグショー」の映像を見るとかなり身体的には深まっている。
画像の状態が悪いため顔も鮮明ではないが、かえってソフトフォーカスが掛かっているようで、妙に美しい。「劇場」などは異様な気迫に満ちていて、「美貌の白石加代子」といった風情さえある。
ただ、胸や腹に落ちた声とクライマックスの歌い上げる部分が同居するなど、この頃は彼女の模索期だったのがわかる。
一つのコンサートで演歌からシャンソンまで、それぞれにあった衣裳や扮装で、それぞれを高水準に唱う姿を見せられると、「多彩」という言葉では言い尽くせないこの人の歌の世界を印象づけられる。
ただ単に名曲をカヴァーしたというのとは意味が違う。「歌の世界」という海を漕ぎ出すちあきなおみにとって、ジャンルはたまたまその時点で乗り合わせた船でしかないことがよくわかる。
「ラ・ボエーム」はまさに端座して聞くべきである。
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