2009年11月17日火曜日

ちあきなおみ その11 「 終わりに 」


あきなおみについてこれまで考えてきたことのおおよそは書けたと思うので、この辺でそろそろ終わりとさせていただきたい。彼女の多彩な能力の一部でもご理解いただけたら幸いである。

この人は、自分の歌い方をリジッドに守り、その中で巧さを追求していくタイプの人ではない。曲ごとにさまざまな装置と意匠をめぐらし、演じ分ける人である。ジャンルを飛び越え、位相をスライドし、歌との距離を変えていく。 「喝采」の経年の変化にその一端が見える。

その多彩さを後ろから支えるのは勿論彼女の身体の「深化」である。

当初は他の歌手との比較も考えたが、書き出すときりがないのでやめておく。ただ歌謡曲を語れば美空ひばりに触れないわけにもいかないので、簡単に書いておく。


美空ひばりの特徴は、二つある。

その類い稀な体内筋群の強さに裏打ちされた高度な歌唱能力と、歌手と観客が共有する「場」の時空間を一瞬で支配してしまうその圧倒的な「制圧力」である。どんな曲でも余裕をもって歌ってしまう身体能力とこの「制圧力」は、他の誰をも寄せ付けない美空ひばりのみが持つ才能である。
ただ、余裕があまって歌と精神に反映されるその過剰さを、私は好きになれない。

ちあきなおみと美空ひばりの比較を考えていると、ボクシングが頭に浮かんで来た。

美空ひばりはヘビー級の、ちあきなおみはミドル級のチャンピオンである。
リング上で一対一で戦わせればヘビー級のボクサーが勝つだろう。
でも
「ボクシングの面白さを味わえるのはミドル級の試合の方かもしれない」

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