2009年11月8日日曜日

ちあきなおみ その4 「歌 2」

 さて、クラシックにしろ歌謡曲やポップスにしろ、一般的な西洋音楽の発声法は根本のところでは共通している。
すなわち歌手は腹筋や横隔膜その他の呼吸筋を使い、肺にたまった空気を声門に通し、声帯を震わせ、発生した声を咽頭や口腔内に響かせる。聴衆は空気を伝わってきたその音声を聞き取り、それが上手いとか下手だとか感じ取る-----そう考えられている。


 しかしわれわれが歌を聴き、感じ取るのは「それだけではなかろう」というのが私の考えである。


 確かに物理的に耳に聞こえる声は上記の通りかもしれない。だが歌を聴いた時、歌手についてわれわれが感じ取る感覚の多くの部分は、歌手の体幹部から生じる「響き」に因っている。
 声帯から発せられた声は二つの方向に分かれる。上方に向かい歌手の口から外へ出て行く成分と、反対に下方を向いて体幹部を進行し、あたかもスピーカーボックスのように胸や腹に響く成分である(もしかしたら、体幹部の筋肉の動きが直接声にならない声を発生させているのかもしれないが・・・・)。
 このとき聴衆は、この体幹部の使われ方とそこで響く音色を直感的に感じ取り、歌手の力量や特徴を判断する。歌に深みがあるとか、温かいとか、声は良いが浅薄だとか----そういった感覚の根拠は、聞く者が直感する歌手の体幹部の様態なのである。


 ここに関係してくる要素をまとめてみる


1. 歌手が体幹部(胸や腹など)のどの範囲をどう使っているか
  • 一般に、使われる範囲が広いほど音は豊かとなり、落ち着きや信頼感が醸し出される
  • 胸から腹に向かい深く降りていくほど、歌に深みが感じられる
2. 声が一番強く感じられるポイントが体幹部の中心線上に存在し、それを歌の「重心」と呼ぶ
  • 重心は人により位置が違う
  • 重心が深いほど、歌にも深みが出る
  • 重心の位置が常に安定している人の歌は心に響きやすく、歌自体も安定していると感じられる
3. どのような色合いの音がどう組み合わされて使われているか
  • 体幹部の中心線上に、ある幅を持って主要な声の領域(「主要声域」)が存在するとともに、他の部分に様々な音色の成分(「副声域」)が混じり合って存在する
  • 副声域の種類や分布は人によりさまざまであるが、一般に複雑で広いほど声は豊かになる
4. 誰にも、歌手の身体を自分に写し取り、直感的に理解する能力が備わっており、これを「共鳴」という
  • 共鳴は歌ばかりでなく、演技など人間の対人的身体活動全般に起こりうる


「 」内の言葉は私が勝手に名付けた用語である。
 

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