”Strike Up the Band”(1940)から”Our Love Affair”
ピアノの前のミッキーとジュディが恋について歌います。
興行主が選ぶ最も収益に貢献したスターのランキングで、この年ルーニーは一位、ガーランドは十位。コンビとしての人気が最高の頃です。
とは言ってもここで注目していいただきたいのはジュディの表情です。
何か言いたげな含みを持った顔。
明るく誠実でしっかりしていながら、一歩下がってミッキーを支える---これが、このコンビでのジュディが担う基本のパーソナリティです。しかしその裏で、彼女には相手と周囲を批評するなにがしかの辛辣さが常に同居しています。
「それで良いの?」「本当なの?」「そうなのかしら?」・・・・・言葉にはならないかすかな問いかけが、彼女の表情からは絶えず発せられます。
表情ばかりではありません。(耳が不自由な人用の)英語字幕を見ると、ジュディの笑いは時に、”giggling”と表現されています。日本語に訳せば「クスクス笑い」となるのでしょうが、彼女の笑いはそれとは少しニュアンスが異なります。のどの下を「クククク」と鳴らして笑うのです。
この笑い方は相手の言動に賛意や好意を示す肯定的な意味を基本に持ちますが、同時に完全に相手の気持ちと同一化した普通の笑いと異なり、わずかに相手と距離を置いた、どこか冷めた批評性が内在しています。
観客はこれらの複合的な意味を直感的に把握し、時代や社会が要求するヒロインの一類型の内部に、自分たちと同じ生身の人間の息遣いを感じ取り、共感し支持していきます。
ルーニーをはじめ多くのアイドルが、その「賞味期間」を過ぎると急速に忘れ去られて行ったのに対し、ジュディ・ガーランドがその生涯を通じて人気を失わなかった理由の一つに、彼女が演じる人物が常に重層的な意味を表現していたため、真に観客との心の交流を持ち得たことが考えられるのです。
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