2010年11月6日土曜日

ディアナ・ダービン その13 「It Started with Eve 1」

















 ”It Started with Eve”はロートン、ロバート・カミングスと共演のスクリューボール・コメディ。決して傑作、名作と言うわけではありませんが、配役の妙、ストーリーの巧みさから、とても楽しめる映画になっています。

 死の床に就いた大富豪(ロートン)は、駆けつけた一人息子(カミングス)に彼の婚約者の顔を一目見ておきたいと言い出します。お抱え医師から今晩持つかどうかと聞かされた息子は、婚約者を迎えに雨の夜、ホテルへ向かいます。ところが婚約者は母親と出かけたまま。どこへ行ったのか、いつ帰ってくるのかもわかりません。困った息子は、仕事を終えホテルを出てきたクローク係の女性(ディアナ)に事情を話し、婚約者のふりをしてくれないかと頼みます。翌日郷里へ帰る予定のディアナは一旦断りますが、お礼の50ドルに心を動かされ、引き受けることになります。ロートンは彼女をいたく気に入り、安心したように眠りに就きます。お礼をもらいアパートへ帰るディアナ。

 すべて上手くいったかに思われましたが--- 翌朝、なんとロートンがすっかり元気になってしまい、婚約者と一緒に朝食をとりたいと言い出したから、さあ大変・・・・・・・。

 


 40ポンド(18Kg) 減量の上、わざと大きめの服を着て病後のやつれた姿を演じるロートンは相変わらずの上手さですが、ディアナもスターとしての存在感でロートンに一歩も引けを取りません。グランドピアノを階段の下に引っ張り出し、二階のロートンに弾き語りで歌を聴かせる場面の「腰の据わった力強さ」には、一種の爽快感さえあります。

 さらにまわりを囲む役者が適材適所です。二人の間で翻弄されるカミングスの軽み。ロートンやディアナの言動に右往左往する執事、お抱え医師や看護婦のおかしみ。婚約者を演じる女優さえ、「美人で品もあるが、痩せぎすでちょっと影が薄く、ロートンがディアナの方を気に入ってしまうのも無理はない」と思わせる、「ほどの良い美しさ」です。

 しかし表面的な映画の楽しさとは別に、この物語にはこれまでの彼女に区切りをつけるいくつかの大切な要素が隠れています。

 一つは、この作品で彼女が初めて、少女ではなく年齢相応で、とりわけ金持ちでも貧乏でもないごく普通の働く女性を演じていることです。自ら状況を変えていく”Little Miss Fix-It” でもありません。かえって周囲の状況に「巻き込まれていった」役柄です。これこそ「けなげな少女」の役に不満を抱いていた彼女にとって、(コメディという枠組みを除けば)この時点での理想とも言える等身大の設定だったと思われます。



0 件のコメント: