2010年11月3日水曜日

ディアナ・ダービン その12 「突然 」



















「ハリウッドのピンナップガールが欲求不満な人たちのためにセクシーな役を演じているのと同じように、私は多くの父親、母親たちが期待する理想の娘を演じているの」


 スターの気持ちとはどんなものだろうと考えることがあります。といっても、大人になって自らその地位を勝ち取った人々のことではありません。年端もいかぬ子供のうちに、周りからお膳立てされた道を歩かされ、気づいたらそこがスターの居る場所だった---そういう子供や思春期のスターたちのことです。

 初めは目の前に与えられたことをただ一生懸命にやっている。そのうち、周囲が変わってくる。ちやほやされるが、勝手に一人で行動もできない。言動を縛られ、毎日忙しいだけの生活。その中で自分のやっていることの意味を考え、社会との距離を知り、さらにありうるなら、周囲との関係を批判的に捉えることが、いったいいつ頃起こるのか。そう云うことについて考えることがあります。

 しかし多くの場合、彼ら彼女らは成長と共にその魅力を失い、批判力や疑問が育つ頃にはすでに周囲からうち捨てられています。批判や疑問は過去を振り返る形でしか存在しません。それに引き替えディアナ・ダービンは、捨てられるどころか成長と共にその価値を増していった数少ない例です。批判や疑問は不満と形を変え、現在形で進行していきます。

 そして、いつかそれが表に現れる時が来るのです。


 1940124日、”Nice Girl ? “1941年) 撮影中のサウンドステージを会場に、ディアナにとって十九回目となる誕生パーティが盛大に行われます。多くの取材陣が待ちかまえる中、「突然の出来事」にディアナが「驚き」、新曲を贈られ、次回作の企画が発表されるなど、お約束の進行の内にパーティは終了します。

 ところがその翌日に突然、彼女の両親からディアナの婚約が発表されるのです。挙式は翌年4月、お相手は「天使の花園」の頃から助監督を務めていた5歳年上のヴォーン・ポール。ユニヴァーサルへの相談もなく、まったく唐突だったと言われるこの発表に対し、撮影所側の反応は伝わっていません。しかし両者の力関係からか、ユニヴァーサルもこれを認めざるを得ず、逆に宣伝の材料として使っていくことになります。

 1941418日の挙式は、ジュディ・ガーランド夫妻やミッキー・ルーニー等も含め招待客の総計900人余り。会場の外に詰めかけた数千人のファンと警備の警察官も見守る中、式は無事終了します。


  一カ月間の新婚旅行から帰ったディアナは、さっそく次回作 ”It Started with Eve”1941)の撮影に入ります。チャールズ・ロートンと共演したこの映画は、世上、彼女の最高作との呼び声も高いばかりか、パステルナークやコスターとの最後の仕事であるなど、様々な面で「少女期の終わり」を象徴する作品となっていきます。


0 件のコメント: