2010年11月7日日曜日

ディアナ・ダービン その14 「It Started with Eve 2 」



















 二つ目はディアナと年上の男性との関係です。

 これまでの彼女の映画には、中年の男性に憧れ、恋心を抱く設定が多いことに気がつきます。「年ごろ」、「ホノルル航路」、「Nice Girl?」 、恋人ではありませんが、中年男性との交流が大きな役割を果たす「アヴェ・マリア」。

 中年男性との恋愛は様々な意味で利点があります。まず、この時代の制約の中では、中年男性は知的で分別がある存在と描かれているため、彼女の思いをうまく「いなし」、恋愛にまつわる性的な生々しさを避けることができます。次に、少女でありながら存在として大人びているディアナと対等に渡り合える対象であること。さらに、時代の枠組みや倫理規定、物語の構造などがブレーキ役となり、「この恋愛は成就しない」と観客が直感的に予想するため、映画を安心して観ることができることです。

 加えて、若者だけが活躍する「青春映画」とくらべ、中年男性がストーリーに絡むことで様々な年代の人々が興味を持ち楽しめる要素が増える利点も挙げられます。

 一方、 ”It Started with Eve”での相手は中年どころか死期の近づいた老年、ロートンです。しかも思いは彼からディアナに強く向いています。その結果この映画の主題は、ロートン、ディアナ、カミングスの(一辺を隠した)三角関係になっています。表面上はディアナとカミングスを結びつけようと画策するロートンですが、その過程で浮かび上がってくるのは、ロートンからディアナへの強い思いと、それを包容力で受け止めていくディアナとのセクシャルな情感の交流です。地下の水脈のように鈍い光を放つ性的な情感が、この軽妙なコメディに豊かな陰翳を加えているのです。

 少女ではない彼女にとって、もはや年の離れた男性にあこがれる必要はありません。ロートンを介しカミングスと結ばれることによって、作品の中でのディアナは自らの少女の役割を無事、終焉に導くことができたのかもしれません。


 しかし、この作品を最後にパステルナークもコスターも相次いでMGMに去って行きます。

「成長する少女」のテーマを失った彼女の迷走が始まります。


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