2010年11月20日土曜日

ディアナ・ダービン その19 「そうは言っても・・・・・・」










次回作は西部を舞台にしたミュージカル、”Can't Help Singing”1944年)。

衣裳デザインを担当したウォルター・プランケットの思い出話です。

 「ユニヴァーサル・スタジオはディアナをまるで女王のように扱っていました。彼女が望むものは何でも与えられたのです。その頃彼女は23歳くらいだったと思います。ロケ現場(南ユタ)に備えられた彼女専用のドレッシング・ルームは素敵なバンガローで、家と言っても良いほどの大きさがありました。

 彼女自身のことについても、主演の映画についても、最終決定はすべて彼女がすると聞かされていました。彼女に初めて会ったのは、衣裳のスケッチを見せるためでした。バンガローには私たち二人の他に、プロダクション・マネージャー、カメラマン、監督、セット・デザイナーが同席していました。彼女はスケッチを見て言いました。

”素敵なドレスね、気に入ったわ”

するとプロダクション・マネージャーがスケッチを皆に見せ、こう言いました。

”ミス・ダービンはこのスケッチを気に入られたそうだ。誰か意見があれば、今のうちに言ってくれ”

もちろん反対意見もなく、素晴らしいデザインだと皆が言い、承認の署名をするのです。 その時点でカメラマンはライトの良い当て方を心得ており、セット・デザイナーは彼女のドレスに合わせてセットを作るのです。」

 「映画のほとんどは6月から7月にかけて撮影されました。とても暑い頃で、朝われわれが現場に着くと、いつも霧がかかっていました。霧が晴れるのをそのあたりで待っていると、ディアナはわれわれをドレッシング・ルームに招いてくれました。そこには数カートンのシャンパンとバスケットに入った食べ物が用意されていました。霧が晴れる頃には、シャンパンと食べ物のために彼女のドレスは着るのがきつくなっていました。すると彼女が言うのです。

”さあ、お家に戻って休みましょう。撮影は明日でもできるんだから” 

その結果、その日の撮影は中止され、後には燦々と日の光が降り注いでいました。そして翌日も同じことが起きたのです。到着すると、濃い霧が立ちこめ、彼女のドレッシング・ルームでシャンパンとごちそうを食べ、撮影可能なほど霧が晴れた頃には、ドレスはパンパンに膨れ上がり、われわれは宿舎へ帰って休みます。このような事態がしばらく続き、私にはどうやって撮影を終わらせたのかわかりません。でも確かに終わらせたのです。」

 「他のスター、たとえばフレッドとジンジャーは、むちゃくちゃに稽古をしていました。哀れなデビー・レイノルズは、一日の終わりには水たまりほどの汗をかきながらこう言ったものです。

”これから衣裳合わせに行かなくちゃいけないの?” 

でも彼女はやって来て、それからまたリハーサルに戻っていきました。ドナルド・オコナー、ジーン・ケリーにジュディ---彼らは皆何時間も働き続けました。ディアナはただそのかわいらしい口を開け、愛らしい声を出すだけでした。彼女は歌を習い、そしてただ歌っただけなのです!」

 「終盤にさしかかると、シーンをカットする必要がでてきました。彼女には二つの場面がまだ残っていたので、私はそれぞれのために丹精をこめて舞踏会用のドレスをデザインしました。スタッフにはどちらのシーンをカットして良いのか決められません。彼女の承諾が必要なのです。そこでスタッフはあるアイデアを思いつきました。どちらのドレスが気に入ったかを彼女に聞き、撮るべきシーンを決めるのです。でもディアナは決められませんでした。両方気に入っていたのです。コーラスを従え、豪華に飾り付けられたフィナーレで、彼女は両方の衣裳を着たのです。最初の衣裳、次の歌では二番目の衣裳を。誰も気にしないのです。とにかく、このようなことがミュージカルではOKだなんて思いもしませんでした。」


 これは別にディアナ・ダービンを批判する文脈の中で語られたわけではありません。ウォルター・プランケットは彼女に対し好意的な人なのだそうです。

 ディアナとユニヴァーサルのやりとりだけを辿っていくと、互いに緊迫した重苦しい関係をつい想像してしまいます。しかし実際のところ、第三者の目で見ればこういう事だったのだというのがよくわかります。

 '40年代に入り、スタジオの稼ぎ頭の座はアボット&コステロに譲ったにしろ、ディアナは出演作のヒットがほぼ約束されている大スターです。彼女のカラー作品がこれ一本しかないのも、彼女の高額な出演料のため、貧乏なユニヴァーサルにはカラーで撮るだけの余裕がなかったせいだと言われています。そのユニヴァーサルでさえ(ユニヴァーサルだからこそ?)これだけの待遇を彼女に与えていたのです。


 まさに「ユニヴァーサル城のお姫様」です


0 件のコメント: