2010年7月15日木曜日

レスリー・キャロン 自伝 その17 「足ながおじさん 2」

 「そうは言っても彼は意外なほどおしゃべりで、たわいもない噂話が好きでした。撮影の合間もセットでフットボールや競馬の話を熱心にしていたものです。ビリヤードも大好きでしたが、当然のことながらとても上手でした。」

 「演出も好きなジーン・ケリーと対照的に、フレッドは心の底から踊ることだけが好きだったのです。コート掛けのある部屋に三十分ほど放っておけば、コート掛けとのナンバーを一曲振り付けていることでしょう。足さばきの軽さはネコのようで、息を切らすこともありませんでした。汗も滅多にかきません。完璧にこなすことは彼にとって楽しみの一つだったのです。」

 「そのリズム感は生まれついてのものとしか言えませんでした。以前、私は紳士用品店で、彼が店に入りカウンターに歩み寄ってくるところを見たことがあります。歩く姿は優雅で力みがなく、あえて言えば、自分自身の奏でる曲に合わせて軽快に歩いているようでした。」

 「彼の服装はエレガントでありながら気取りがありません。いつも薄い灰色のフラノのズボンにネクタイをベルト代わりに締め、青いオックスフォードのシャツに、革製のローファーを履いていました。」


 当時アステアの妻フィリスは癌に冒されており、リハーサル中にも彼の悲しむ姿が多く見られるようになります。

 葬儀の後二週間経ってアステアはリハーサルに復帰しますが、集中力を欠きイライラしているようでした。

 時にはタオルに顔を埋め泣き出すこともあります・・・・

 「リハーサル室は敬意のこもった沈黙に満たされていました---声高に話す者も、大声を出す者も、クスクス笑う者もいません。私たちには、彼への心遣いを示せるように振る舞うしかなかったのです。」


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