2010年6月16日水曜日

レスリー・キャロン 自伝 その6 「アメリカ」

 1950年の春、空路を乗り継ぎ三十六時間をかけ、レスリーと母マーガレットはロサンゼルスに到着します。すぐにビヴァリー・ウィルシャーという名の中級ホテルへ連れて行かれた二人は、一週間分の給料百五十ドルの小切手を渡され、アメリカでの生活を始めることになります。

 戦中から戦後の貧しさやギスギスした人間関係を体験した二人にとって、アメリカでの生活では驚くことばかりでした。紹介された代理人の愛想の良さに警戒感を抱き、レストランでは皿全体を覆う巨大なステーキに驚き、街で出会ったグレゴリー・ペックに感激します。

 母マーガレットが自分用にスプリングコートを買ってしまったため、今後の生活費や宿泊代が足りなくなると考え、二人はあわててMGMスタジオに近い安手のホテル---カルヴァー・ホテル---に居を移します。部屋の臭いや環境の悪さに、レスリーはバレエ団のベイルート巡業の頃を思い出す事になります。

 三日目、マーガレットがケリーに電話を入れると、受話器の脇にいても聞こえるような大声が響きます。

 「どこに行ってたんだ。今どこにいるんだい。スタジオ中がこの二日間、君たちを捜してたんだよ。カルヴァー・ホテル? 信じられないよ。そのへんのアシスタントが昼休みにショーガールを連れ込むようなとこだよ。ヘッダ・ホッパーにこんな事を知られないように、ジッとしてなくちゃだめだ。マーガレット、すぐタクシーに乗って家まで来なさい。ハリウッドについていくつか教えとかなくちゃいけないから・・・・・・・」

 結局二人はカルヴァー・ホテルより少しましな、MGM裏のモーテルに引っ越し、そこで生活することになります。


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